コミケ&マラソン作戦<マラソン編>



 ☆<食い溜め>
 「コミックマーケット73」が無事終了してから数十分、しばらくベンチでボーっとしていました。 急ピッチで片付けられる会場。足早に参加者の皆さんが帰っていくのはやはり大晦日だからでしょう。 私は新年を迎える時点で、茨城県の鹿島神宮にいさえすればよいので、別段急ぐ必要はありませんでした。
 5時半ごろ会場最寄り駅「国際展示場駅」に行ったら、混雑に全く喘ぐことなく電車に乗る事が出来ました。
 ここからまず「新木場駅」を目指します。 新木場駅で一旦下車して、駅前のSubwayでローストチキン?を挟んだサンドイッチをのんびり食べました。
 新木場駅からは全てJRで鹿島神宮駅に向かいました。 営業距離にして100キロちょっとなのですが、これが結構面倒くさいのです。 つまり、西船橋・千葉・成田・佐原の4回も乗り換えなければいけませんでした。 まぁ文句を言っても乗り換え回数は減らせないので、やはりのんびり行く事にします。
 それでいて、マラソンに向けての準備も怠りません。特に重要なのが、栄養補給です。 私がフルマラソンを走ると、大体2500kcalは消費するらしいです。 走りながら何か食べてもいいけれど、それなら先に手を打っておこうという訳で。
 手始めに、千葉駅の構内にあったカレーを。 鹿島神宮に着いたら近くのコンビニでおでんを。あとどこでだったか忘れてしまいましたが、菓子パンとプレッツを。 そうそう、鹿島神宮では、初詣に伴って屋台が並んでいましたので、さらに豚玉焼きなるものを食しました。
 途中買ったペットボトルドリンクを含めて、私の出納帳によれば1539円を費やしました。
 …普段朝食は93円の食パン8枚切りを3枚+マーガリンなど、 一食に200円以上かけない性質な私が、どうして今日に限って湯水のように食物を買い食いしてしまうんだろう?

…大学の生協食堂での食事は別。「ミールカード」と言う食堂利用定期券のお陰で一食300円〜400円は食べてる。

 1500円あれば、それなりのレストランで何か食べた方がむしろ良かったのではないか、と少々後悔しました。 しかし貧乏性な私は、そういう場所に独りで入る事さえ躊躇してしまう、結局このような「かさばる食事」だったのでした。
 ともあれ、午後9時過ぎには現地入りした私は、コンビニのトイレに入って着替えます。 ただの私服から、ジャージに。白地の半袖Tシャツにクリーム色の長袖ジャージを通し、紺色のジャージズボンを穿きました。
 それらは高校の体育の授業で使用していたもので、上下共に私の名字がビシッと刺繍されています。 ポケットにはハンカチとティッシュ、小銭、携帯、自作ルートマップを備え、薄手の白軍手を装着します。 他の荷物は手ごろな大きさのリュックサックに詰め込んで、戦闘体制はバッチリです。
 あ、でもスタートまでは寒いし鹿島神宮で衆目にさらされる事を考慮して、コートを羽織っていましたが。
 その後、スタートから1kmと少しの間のルート確認。初めて訪れる土地ですし、初っ端から道を間違えては致命傷ですから。 それが終わるとしばらく町を散策し、鹿島神宮に乗り込みます。せっかくだからお賽銭投げてお参り済ませてから走る事にしました。
 午後11時過ぎ、本殿らしき所にある大きな賽銭箱を目の前にして待機します。そしたら続々と人が集まってきました。 あっという間に身動きが取れない状態になり、「混んでるのはコミケだけじゃなかったんだな」という当たり前な事実を思い返しました。 ただ、コミケで待機列や行列に並ぶ人(スタッフ除く)よりも、賽銭箱の前で待つ人のほうが騒がしく感じました。
 間もなく新年を迎えるという特別な状況でテンションが上がるのも無理はないし、多少騒いでたって構わない雰囲気なのは分かりますが、 それでも同様に(理由は異なるが)テンションが高いコミケ参加者の場の方が静かだったのは興味深いです。 別に、どっちの雰囲気が優れているという議論はしませんが…
 2007年12月31日午後11時59分になると、どこからともなく117でお馴染みの時報が聞こえてきました。
 「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、チーン…午後11時59分丁度をお伝えします…ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、チーン」
 周囲のテンションがますます上がっていきます。そして…

 「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、チーン…午前0時丁度をお」
 「オメデトー!!」


誰かの威勢良い発声を引き金に、歓声とお賽銭の雪崩が始まりました。
 同時にどこかで
 「ちょ、まだ早いよ!」
 と言う声がかすかに聞こえました。

…実は時報では、述べる時間がやってくるのは、その直後の「チーン」である。 たとえば先ほどの「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、『チーン』…午後11時59分丁度をお伝えします…ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、『チーン』」 だと、一つ目の『チーン』は午後11時58分50秒を示し、二つ目の『チーン』こそ、午後11時59分丁度の瞬間なのだ。
なので「ポッ、チーン…午前0時丁度をお」でお賽銭を投げた人は、午前0時丁度より8秒ほど早く投げてしまった事になってしまう。

 私は「まだ早い」と思いつつも口には出さず(小声でつぶやいた可能性はありますが)、 皆が新年を心から祝っている表情なのを冷静に眺めながら、正しい午前0時丁度の『チーン』を聞いた後にお賽銭を投げました。
 新年早々、もとい年の最後の最後にまで、空気を読むことになるとは思いませんでした。

 ☆<ジャージ男、いざ参る>
 参拝客がぞろぞろ下山していくのを尻目に、私は境内のトイレに駆け込み、用を足し、準備運動を念入りに行いました。
 そして2008年午前0時10分、フルマラソンスタートです。
 練習時と違いリュックを背負っていましたが、ペースは落とさずともいけそうです。 スタート直後は鹿島市の街の中。3kmほど走ると国道124号線に入り、それが千葉県銚子市の約37km地点まで続きます。 なのでまずは国道124号線を目指すわけですが… 20分経ってさすがにそろそろ国道124号線が見えてくるだろうと思いながらも、さらに走り続けました。でも、どうもその気配がしません。
 国道124号線はこの界隈を突き抜けるバイパスのはず、鹿島神宮から東に向かって走ればこれにぶつかるはずなのに。
 私に最初に冷や汗をかかせたのは、一枚の道路標識でした。何と私が現在進行形で走っている方向の先に、鹿島神宮があると言うのです。
 「これもしかして、スタートに戻ってる?」
 どうやらどこかで、進むべき方角が狂っていたようです。 ちょっと焦って、まだスタートしたばかりだからいっそのことスタートまで戻ってやり直そうかと思いましたが、 それよか地元の人に聞いた方が早いと気づき、歩いていたおじさんに国道124号線はどちらか尋ねました。 少なくとも私が向かっていた先に国道124号線はない事が分かり、ひとまず立ち止まって自作ロードマップを広げました。 目印として書いた建物も一向に見当たりません。
 ならば方角に頼るしかない、どうしよう―そう思いつつもふと顔をあげると、目に飛び込んできた景色は、「半分の月がのぼる空」
 早くも某友人が大好きな電撃文庫の幻想が見えたわけではなく、およそ半月が輝く単なる澄み切った夜空です。
 そういえば…昨日の朝7時頃、ビッグサイトの駐車場で並んでいた時、南西の方角に月が見えていたなぁ。
 その時、私は気づいたのです。「今、月が昇る方角は、およそ南東だ!」と。 私は元気を取り戻し、月めがけて走りました。
 10分程走るとそこには、待ちに待った国道124号線。やっとスタートラインに立てた気分でした。
 「後は迷わず走り抜く!」
 行き交う車はバイパスにしては少なく、脇を行く人間は誰もいない中を独り、淡々と走っていきました。

 最初のチェックポイントに到達したのが、午前1時。 道に迷っていた事もあって、まだ6km地点でしたが、後5時間46分で36.125km…6km/h強か。まだまだ大丈夫、いつものペースで走れれば!
 それにしても、長いなぁ、このバイパス… ルートを作るときにあらかじめ沿道の目ぼしいコンビニの位置とその時点での到達距離だけは求めていました。 目指すべきゴールは唯一つですが、やはり目標が遠すぎると、どうして今自分は頑張っているのだろうか…という気分になってしまいます。 「次のコンビニは3km先か。ならば○時30分までに辿りつこう!」と言う具合に、こまめな目標設定の必要性を痛感しました。
 さて、27km地点辺りで、お腹が空いてきたので、コンビニで肉まんでも食べよう、と思い立ちました。 そう思ってから最初のコンビニに入ると、「肉まんはまだ準備中」との事。 午前4時ごろなんてお客さんが殆ど来ない時間帯。そんな時間帯に準備するのは当然と言えば当然。 しかし、その次入ったコンビニでも「準備中」と言われたのはショックでした。結構闘志が萎えてしまいました。 ペースダウンが起こり始めたのもこの辺りです。 それでも32km地点のコンビニでようやく肉まんにめぐり合えたので、何とか持ち直すことが出来ました。ありがとう、ミニストップ!!
 35km地点。長い長い大通りを抜け、銚子大橋へと差し掛かりました。 この時午前5時を少し過ぎた頃。しかし疲れは絶頂。 毎回コンビニを出てからは、休憩中も距離を少しでも稼ごうと、クーリングダウンも兼ねて歩いて進んでいたのですが、 この頃になるとむしろ歩く方がデフォルトで、なかなか「走ってる」レベルに到達できませんでした。 「せめて次の信号までは走ろう!」「あの信号が赤になるまでに渡りきるぞ!」と度々自分を鼓舞し、ゆっくりとしかし確実に進んでいきました。
 ロードはトラックに比べて、「コンクリートのため足を痛めやすい」というデメリットがありますが、 「景色の移り変わりがあって飽きない」というメリットがあります。千葉県銚子市の市街地に入って、益々その気持ちが強まってきました。 今回のようなマラソンは、いわば「旅してる」という気持ちを充実させ、体をひどく酷使している事を忘れさせるほどの快感がそこにはありました。 これは、日本一周や世界一周で貧乏旅行を経験してきた私だからこそ、感じえたものでしょう。
 それに、体を酷使という面で言えば…日本一周中、ファミレス・コンビニで3日連続眠れない夜を明かし、 ネットカフェ探しで4時間以上あの重いバックパックを背負ってさ迷い歩いたよなぁ。 世界一周中、インドでタクシーと野犬に追い回されながら、安いホテルを探し回ったよなぁ。
 それらに比べればこのマラソンなんて…まだまださ!
 というかあんなのを経験すると、精神的にも肉体的にも大分タフになれますよ、ホント。
 しかし体中、特に脚が悲鳴を上げています。私の場合、走っている時は大抵脚の前にわき腹が先に痛んでくるのですが、 今回は比較的ゆっくり走っていて、されど未経験の長い距離を走っているからでしょう。
 残り4km、車及びバスが異常に混雑してるのを目の当たりに。犬吠崎の初日の出はこれほど人気があったのかと驚きます。 歩道を歩いてる人もぞろぞろ出てきました。ジャージ姿で走っていく私の姿を見て、彼らは何を思ったのでしょうか。 渋滞してる車道をよそに、なりふり構わず走り続ける私。 交通整理のため多くの警官がそこらじゅうに並んでいましたが、職務質問をかけられやしないかとビクビクしてたら走り続けられません。
 ただ無心に、走っていました。
 というよりも、何か考えようとしても考えなどまとまるはずがない、という状況でした。

 午前6時28分。私は無事、犬吠崎に到着しました。

 初日の出予定時刻まで残り18分。ひやひやしましたが、ミッションコンプリートです。



〜写真たち〜


左側。鹿島神宮駅前にあった微笑ましいイルミネーションです。
右側。新年到来の瞬間を味わった場所です。


左側。出発してから約5km地点。ふと周りに何もいなくなりました。寂しいです。
右側。犬吠崎に到着した瞬間。何かを叫びたくなりました。



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